生物物理夏の学校まとめ

山村研合宿をさぼった欠席したお詫びにレビューを書きます。


柴田達夫さん:細胞内ゆらぎのはなし。聞くのは4回目。さすがに理解は深まっている。ケモタキシスをリガンドの結合乖離で説明するときには揺らぎを議論せざるを得ない、という話。
分子数の平方根の法則=いま体積vに分子がn個あると言ったときに、sqrt(n)ぐらいある。
プロセスのゲインgに対してintrinsic noiseはリニアに、extrinsic noiseは二乗で増加する。このノイズはパワースペクトルを取れば分解することが出来る。この話は以下の論文にまとめられている。

Noisy signal amplification in ultrasensitive signal transduction.
Proc Natl Acad Sci U S A, Vol. 102, No. 2. (11 January 2005), pp. 331-336.
Shibata T, Fujimoto K


現在わかっているケモタキシスのシグナルカスケードは直列につながっていてシーケンシャルであるが、真実はもっとぐちゃぐちゃなはずである。この話が、フィードバックループを描いているときや、スモールワールド/ランダムネットワークなどの複雑ネットワークの観点から見たときにも成り立つ話かどうかという質問をしてみた。そもそもループになっているときにintrinsic noise,extrinsic noiseという区別そのものが正しいかどうかは考えなきゃいけないだろう。ぐちゃぐちゃな状態で、内も外もないはずだと思う。
どうでもいいが、相変わらずドランクドラゴンの鈴木にそっくりであった。懇親会では、名大の笹井先生とKaiのモデル化で一仕事しようと相談していると教えてもらった。あまりいじめないで欲しいものです。


中垣俊之さん:


郡司ペギオ幸雄さん:生物物理を名乗る人間の7割はタンパク屋で、生物物理夏の学校も今年のテーマは「タンパク万博」だ。そのせいで直前まで今年はかなりどうでも良いと思っていたのだが、プログラムを見ると郡司さんが講演者の一人、ということで即座に参加を決めたのだった。講演は彼の著書から醸し出されるヤバさから想像していたほどヤバくはなく、アロハシャツを着て自信が無さそうにボソボソしゃべる姿がなんかいいなあ、と思った。(前日の医学部の分子モータやっている人があまりにも偉そうかつつまらなかったのと好対照だ)内容は、要するに部分と全体の間の齟齬をどう埋めるかという話。生物の話で言えばおそらくome主義と表現型の間をどう埋めるかという話で、単純なome主義は谷底を歩くと感じている自分にとっては切実な話であった。砂山の逆理(砂山はいつから砂山か?)、わきの下の温度=体温とする根拠とは何か?から始まって、外延と内包の齟齬をむしろ認めて、外延から内包への遷移、内包から外延への遷移を繰り返すことが、ミクロとマクロの間を調停している根拠となる、そうだ。この辺はあんまり異論がない。しかしこの調停関係を束を使って記述するところはひたすら論理学の講義なのか?というほど定義と証明の説明。一回聞いてすべてわかる人はこの世にはいるまい。こうしたミクロとマクロの接続に統計力学ではなくて束を使う手法は普通なのですか?と質問したら、南米とドイツに数人いるとのこと。講義でTCAサイクルの再構成を通して時計反応の理解を目指している、とおっしゃっていたので、帰りに捕まえておそるおそる話しかけてみる。日本語がかなり通じるので安心する(笑)手帳をばさっと開いて(手帳の中ほどで後で発見するのは困難だと思うのだが)メールアドレス書いてくださいとおっしゃるのでおそるおそる書かせてもらう。いやはや。


大沢文夫さん:ペギオさんを優先させたため、大沢先生の講義は出席できず。夏の学校の後の、統計力学の基礎がわかるというゲーム大会に出席。ゲーム内容は、二つ。6人で遊びチップを36枚用意。人には番号が振られている。
一つ目のゲームはサイコロを振って出た目の番号の人にチップを渡す。こうすると、獲得枚数は正規分布になる。当然である。

二つ目のゲームは、以下の手続きを100ターンほど行う。1ターンの手続きは1)サイコロを振る。2)その番号の人はチップを場に渡す。3)サイコロを振る。4)その番号の人は場のチップを受け取る。こうすると獲得枚数の分散は小さくなると直感的に思われるが、かえって大きくなる。破産もすぐ起こる。それから、richな人が少数であり、大多数の貧乏人が出来上がる。

結論、1)エネルギーが一方的に流れれば、まあまあ平等にエネルギーは分配される。2)素子間(分子間)相互作用を行えば分散はむしろ大きくなる。大沢先生のしゃべりが面白すぎる。後期の柳昇というか、もうでただけでみんな笑ってしまうというか。