制御生物学の可能性

というレジュメを突然Iさんに渡され、読んでコメントせよと言われる。なんだなんだと思いきや理研の木村先生の科研費申請書類であった。Iさんはそれに関わっているらしいが否定的コメントを書くつもりだそうな。具体的にどこをどう批判したらいいか?というところをエセ制御出身の俺に求めているらしい。
制御工学の歴史や制御生物学はシステムバイオロジーや構成生物学との間にどこに違いがあるのだろうかとディスカッションをする。
帰り道さらに制御生物学という学問が成り立ちうるか考えてはっと「なまものと電気回路の違いについて考えること」が重要なんじゃないか?ということに気づく。電気回路の素子は基本的に馬鹿でやれることは非常に少ないがそのかわり物理法則にはものすごく忠実。トランジスタ一つあってもなんの役にも立たないが、しかしよく考えて組み上げてやるとコンピュータができる。さらに制御理論まで含めれば、それこそ生き物っぽい振る舞いを持つロボットだって可能だ。対照的になまものの素子はいろんなことができる、という意味でトランジスタよりはるかに優秀である。ただし物理法則にのりづらい複雑な挙動を示すし、さらに素子間の結合がかなりルーズである。例えば、吉川研の構成生物学の仕事を考えてもリポソームにゲノムを入れてやればあたかも生き物が出来てしまうとでも考えているような感じでそこには理論不要とでもいいたげである。
要は、素子に信頼を置くか、それとも関係性(すなわち理論)に信頼を置くか?というところが構成生物学と制御生物学の違いであろう。システムバイオロジーは関係性に信頼を置きつつ、「システム同定」という言葉で素子も重要なんだよーというある意味ではムシのいい事を言っているようにも見える。とにかく電子回路に適応していた制御理論の延長にナマモノがあるとは俺は思えない。制御生物学をやるとしたらやはりウィナー級の天才の出現を待たねばならぬと思う。
それはさておき、こうして考えると素子の複雑さ+関係性の複雑さ=一定という理論が出来るような気がする。ブーリアンネットワークで、状態をブール代数ではなくて例えば複数の状態にするとか、ファジィ集合を使うとかで素子の複雑さを変え、関係性の複雑さもパラメータとして適当に変えて、アトラクターの分布というものを調べてみたら面白かろうと思う。そういう研究ってやられてないのかな?

  • 追記、知シスシンポで木村先生が制御生物学について話すらしい。ここを見ている山村研の何人かは講演を聞いたら内容を教えてね。